日本語と英語の違い:受身文のこと

英語学習法

「文法そのものに意味がある」

そんな話を前回のブログでもつらつらと綴ったわけですが、「文法ってこんなに面白いんや!」と気づかせてくれる事例はまだまだたくさんあります。

「お隣のおばあさんは、息子さんに先立たれて途方に暮れている」

「子どもを連れて電車に乗った時、大声で泣かれてどうしようかと思ったわ」

上の例文は全部、「受身文」ですね。実はこの2つ、英語の受身文にはない面白い特徴を持っているんですよ。

英語の受動態の「つくりかた」再考

早速ですが脇道に入ります。

皆さん、学校の英語の授業で「受動態」を教わった時、どんなことを習いましたか?

多くの方は、

名詞1(主語=誰が・何が)+ 動詞 + 名詞2(目的語=誰を/に・何を/に)」

という語順の能動態を

名詞2 + be + 動詞の過去分詞 + by 名詞1

の順番に書き換えられますよ~(変形できますよ~)といった教わり方をしたのではないでしょうか。

実はそんな単純な話とちゃうんやで、という話をしたいのですが、今回はさっきの日本語の受身文の前振りをしっかり回収しにいかないといけません。という訳で、まずはこの英語の「書き換え」における文法的・形式的な制約について考えてみましょう。

“元の能動態の文”は、「主語+動詞+目的語」という構造です。丁寧に英文法を勉強した方は、この「動詞」がどんな動詞か分かりますね。そうです。他動詞です。動詞の後ろに目的語がくる、ということは、その動詞は「何らかの対象に働きかける動作」を意味する他動詞です。例えばBring a gift to your girlfriend(彼女にプレゼントもっていきーや)のbringは、「何か(a gift)持っていく・持ってくる」という他動詞です。Teach me English(おいらに英語を教えてけろ)のteachは、「誰か(me)何か(English)」教えるという他動詞です(こんな風に2つの目的語を取る構文もありますね)。a gift / me / Englishという、「動作の対象」を必須とするのが他動詞です。

じゃあ、他動詞の対になるのは?そう、自動詞です。これは、「単独で完結しちゃう動作」を表します。例えば、Run!!!(走れー!/逃げろー!)のrunは、主語一人で成立する動作ですね。あるいは、I laughed so hard(めっちゃわろたわ)のlaughも、自分一人で完結する動作です。

とにかく、ここで整理しておきたいのは、英語の受動態は、「be(am/is/are) + 他動詞の過去分詞形」だということです。

Many people speak English all over the world.(能動態:他動詞speak + 目的語English)

English is spoken (by many people) all over the world.(受動態:be動詞+speakの過去分詞形)

他動詞だから、こんな風に受け身の形を作ることができるんです。

日本語に特徴的な受身文

さぁ、ようやく本題です。最初の2つの例文、思い出してください。

受身文で使われていた動詞は、「先立つ」「泣く」でしたね。この子たち、他動詞ですか…?

いいえ!ちがいます!!!なんと自動詞が受身形で使われていますね。

× 息子が母先立つ

× 電車で子どもが親/親泣く

なんて言いませんね。変な日本語ですね。「先立つ」も「泣く」も、目的語を取れません。勝手に完結する自動詞です。

自動詞だけど、受身文が作れちゃうんです。そしてこのような日本語の受身文は「被害受身」とか「迷惑受身」とか呼ばれます。何かしらのネガティブな影響を含意するからです。

「息子に先立たれる」→悲しい・やるせない気持ち(ネガティブなにおわせ)

「電車で大声で泣かれる」→困惑(ネガティブなにおわせ)

どちらも、「先立たれる側」「泣かれる側」にネガティブな影響が及んでいますね。

もちろん、日本語でも、他動詞を用いて受身文を作ることはよくあります。構造としては、英語で能動態→受動態をつくるときと同じようなことが起こります。

だけど、「(自動詞も使える)受身文で迷惑・被害を表す」というのは、バチっと英語の決まった構文に当てはめることができません。だから、こんな日本語にこんな英語の訳を当てちゃいけません。

「ずっと楽しみにしてた映画を見に行ってんけど、めちゃ背の高い男の人に真ん前に座られちゃってさ…」

× When I went to watch a movie that I was really looking forward to, I was sat by a very tall guy right in front of me.

英語ではこんな形で受動態は作れませんので、下のように別の手段できちんと「迷惑被っちゃった話」を説明してあげましょう。

When I went to watch a movie that I was really looking forward to, a very tall guy sat right in front of me and I couldn’t see half of the screen!!

おわりに

今回は、日本語と英語の受身文(受動態)の違いとして、「英語にはない日本語独特の受身文=被害受身」を紹介しました。受身の形を使うだけで、詳しい説明をせずとも「被害のニュアンス」が出てくるなんて不思議ですね。

このような母語(日本語)と目標言語(英語)の違いを知っておけば、直訳によって変な英文を作ってしまって「言いたいことが伝わらないよー!」と頭を抱えるもどかしい場面を回避できることもあると思います。そして何より、普段意識せずに使っている母語の文法の奥の深さに感動するんじゃないでしょうか。そこで生まれる「言語そのものへの興味」は、第二言語習得にさらなる楽しみをもたらしてくれると思います。

英語の受動態についても、まだまだ紹介したい小話がたくさんあります。そのうち「英語受身文の一筋縄ではいかない話」も書けたらいいなと思っています。お楽しみに。

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