はじめに
「英語力がある人」と聞いて、どんな人を想像しますか?英語の会議で発言できる人?英語の資料が読める人?英文メールがスラスラ書ける人?洋画を字幕なしで見ることができる人?
そうですね。英語力がある人は、このように「英語を運用する力がある人」です。「英語を運用できる」というのは、「英語に関する知識を応用して」英語の4技能を駆使することができるということです。
Listening, Reading, Writing, Speakingの4技能が使える段階は、英語学習における「応用段階」です。これって何を応用しているのでしょう?それは英語の基礎知識、ですね。
今日は、英語の基礎となる3つの力についてお話ししていきます。そして、順番を間違えずに、「基礎を固める」→「応用する」というステップで英語を使う練習をしていきましょうね、というお話をします。
英語基礎力の柱①:語彙
英語の情報を受信・発信するためには、まず語彙(単語・熟語)知識が必要ですね。
語彙力ってどのくらい大事なんでしょう?
ある研究では、人が何かしらの言語で書かれたテキストを読む時、その内容を辞書を使わずに正しく読み取るには、その文章に出てくる語彙のうち98%を知っていないといけない、ということが明らかにされています。学習者としての私たちが英語のテキストを読む時、知らない単語がポコポコ出てきても何となく文脈から類推して読み進めたりするわけですが、意外とこの類推は正しい読み取りに繋がらないようです。英語の情報を正しく受容するために、「単語や熟語の意味を知っている」ということはとても重要なんですね。
じゃあどのくらいの語彙力が必要なん?というと、「初学者はまず最頻出3000語」というのが答えになります。どの言語の話者でも、ネイティブスピーカーの成人は2万語くらい、母語の語彙知識を持っているとされます(”word family”という概念で単語を数えた時)。その中でも、日常のやり取りに使われるのは3000語くらいで、それを知っていれば日頃接するインプットを9割くらいは理解できると言われています。ですので、日常的な英語のやり取りができる状態を目指す初級学習者の方は「基本語彙3000語」を身につけることを目標にしましょう。
日本の大学受験では、難関国公立の英語入試を突破する学習者は5000語~6000語くらいの知識を持っているようです。書店で手に入る様々な単語帳は、「中堅私立校レベル」とか「難関国立大レベル」とかいう分類がされていますが、これは「最終的に何単語くらいの語彙知識を身につけることが期待されているのか」でなされている区別だと考えて良いでしょう。難関校を目指すほど、日常生活での使用頻度の低い単語をたくさん覚えることになります。
英語基礎力の柱②:文法
近年の学校英語教育の方針で私が一番危機感を抱いているのが、「英文法、軽んじられすぎてません?」ということです。文法的な理解をすっ飛ばして、「なんとなく読む(読めているつもりになる)」「なんとなく話す(話せているつもりになる)」という、誤ったfluency崇拝主義の「ざっくりインプット/ざっくりアウトプット」ばかり行われているような気がするのです。
言語を介して正しい情報の送受信を行うには、文法の正確な理解が絶対に必要です。例えば、「夏季休暇を3日取得できる職場」において、AさんがBさんに「夏季休暇何するのん?」という質問をしたとします。
Bさんが ”If I could take three days off in a raw, maybe I would plan a trip to my hometown.” と答えたとしましょう。
あなたがAさんなら、なんて返しますか?「それはええなぁ!楽しみやねぇ!」でしょうか。
私がAさんであれば、「せやなぁ、あんたのチームはこの夏忙しそうやもんなぁ…。まとめて休み取れたらええなぁ!前回実家に帰ったのはいつなん?」といった切り返し方を選択します。
これは、Bさんが「仮定法」を使って「もし3日連続で休みがとれるとしたら…」と言ったからです。仮定法は、「話し手が”これは実現しそうにないことなんだけど…”という条件について述べたいとき」に使われます。”If I could take three days off in a raw, maybe I would plan a trip to my hometown.” という発話には、「(まぁ多分難しいんやけど)もし3日連続で休めたら、帰郷の旅でも企画するんやけどさ~」という、「実現可能性の低さ」を匂わせる文法のワザが効いているのです。
この例にあるように、話し手や書き手から受け取った英語のインプットをきちんと解釈してその状況にふさわしいアウトプットを返すには、文法の知識が欠かせないのです。
英語基礎力の柱③:音声
これまた、日本の学校英語教育での指導が足りない要素です。どうしてこんなに軽くあしらわれるのか不思議で仕方ないくらい、大事な要素です。
英語の音声理解もまた、4技能を育成するための基盤として欠くことができない要素です。さらに、先に挙げた語彙学習においても重要な役割を果たします。
英語の音と日本語の音は全然違います。例えば、日本語の「ポスト」という単語は、[po]+[su]+[to]というように「子音+母音」で構成される音節が3つ連なってできています。一方、英語の “post”は、[póust]と1音節で発音され、[st]の部分は子音の連続となっています。
英語の音と日本語の音は全然違います。例えば、日本語の「ポスト」という単語は、[po]+[su]+[to]というように「子音+母音」で構成される音節が3つ連なってできています。一方、英語の “post”は、[póust]と1音節で発音され、[st]の部分は子音の連続となっています。また、ピッチの高低の使い分けやアクセントの有無という部分でも、日英語の音声には大きな違いがあります。
このような違いは、明示的に学ぶ必要があります。そうでないと、4技能の運用能力育成や語彙習得の過程に悪影響が出てしまいます。例えば、英語の音声の特徴を知っていないと、どうしてもなじみ深い「日本語の音声の特徴」に当てはめてそのインプットを分析してしまうため、リスニングで問題が生じてしまいます(例:英語のhutとhatを聞き分けられない)。また、スピーキングの時でも、英語らしい発音で単語や文を発することができなければ、言いたいことが伝わらない場面が出てくるでしょう(例:canとcan’tを区別して発音できず、全く反対の意味に解釈されてしまう)。さらに、リーディングを円滑に行うという目的でも、英語音声の理解は重要な役割を果たします。人は、テキストの黙読をしているときでも、頭の中で音声によるバックアップを行いながら文の処理を行っているからです。そして、ライティング・語彙学習という観点では、「英語の綴りと発音の関係」を知っていないと、正しく英語を書くことができないという問題が考えられるでしょう。英語学習の早い段階で「英語の音声に慣れ親しむ」フェーズを経験することがいかに大切か、なんとなくでも理解して頂けるでしょうか?
日本の学校教育では、現在、小学校から英語が教科として教えられるように定められていて、「音声に慣れ親しむこと」もその目標の一つに掲げられています。しかし、今まで私が指導してきた若年の英語学習者たちは、学校で得られる英語のインプットだけで十分に英語の音声体系に自身をexposeすることができていないように見受けられます。がちがちのカタカナ発音でしか単語を読めない生徒は、単語を覚えるのにも苦労しますし、英文解釈のための「意味(or文の要素)の塊の見分け」が苦手なケースが多いです。
その後の4技能の伸びの良し悪しを決定づける重要な要因として、初級レベルの学習者こそ、フォニックスや音声変化の規則について正しく学ぶ機会を意図的に作っていく必要があるのです。
おわりに
物事を学ぶには、適切な順番というものがある程度の度合いで存在しています。言語学習の場合、基礎たる「語彙」「文法」「音声」の基礎知識を最低限理解した上で、それを活用した「4技能を使う応用練習」へと進むべきです。もちろん、「4技能を使う練習」の中で、新しい語彙を習得したり実際に文法がどのように使われるのかを理解したりして、「基礎に舞い戻り、さらに強固な基盤ができる」という逆行的なプロセスを経験することもあるでしょう。しかし、「基礎がガバガバ」の状態で焦って応用段階に進んでも、あまりその勉強の効果を感じられることはないと思います。例えば、英文法の規則を知らない状態で大量の「生の英語のインプット」に触れても、「文脈から何となく意味を類推できる」というレベルから脱却することはできません。文法知識を自分でコントロールして自由自在に英語の文を生産できる状態に到達できないことは言うまでもありません。
学校のカリキュラムでは「〇〇年生ではこういう内容を教える」ということが決められていますが、外国語学習において「〇〇歳でこのスキルを身につけねばならない」といった決まりごとはありません。大学受験のために長い英語の文章を読む練習をしている高校生も、場合によっては基礎に立ち返り、音声や文法を理解する段階を経験する必要が生じます。英語4技能の運用で「頑張ってるのに伸びないなぁ…」と悩んでいる人は、基礎工事がちゃんとできているか確認してみるのがいいかもしれません。
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