英単語の勉強法について(1)

英語学習法

先日インスタで投稿した語彙学習法について、記事にまとめたいと思います。今回は、学習の「質」という観点で「意図的学習」「深い学習」の大切さについて書いていきます。学習の「量」の話はまた後日です!

偶発的学習→意図的学習

人が外国語の新たな語彙を習得するときの状況は、「偶発的学習(incidental learning)」と「意図的学習(deliberate learning)」に分けることができます。

偶発的学習」は、語彙学習を目的としない活動を行っている時にたまたま未知の語彙に出会ってその意味などを知るケースを指します。例えば、趣味で洋楽を聞いている時、歌詞の中に未知の単語があり、文脈から何となくその意味が分かった場合は、その単語の偶発的学習が起きたといえるでしょう。読書をしている時に未知語に出会い、前後の文脈からその未知語の意味を類推するような状況も、偶発的学習の場面と言えます。

この「偶発的学習」ですが、語彙知識が記憶に定着する効率という観点ではあまり芳しい効果を発揮しません。外国語の語彙力を強化したい人が何となくの「偶発的学習」を続けるべきでない理由は大きく3つです。

1つ目は、計画的に「身につけるべき語彙」を身につけるのが難しいということ。語彙力を強化したい!と思う学習者は、たいてい、テストスコアを上げることを目的に「〇〇か月で〇〇単語くらいは増やしたい」という目標を立てているでしょう。偶発的学習では、このような定量的な目標にアプローチするのが難しいです。

2つ目は、「たまたま出会った未知語を類推した」結果が、正しい学習に繋がらない可能性が高いことです。偶発的学習が生じる場面は「よっしゃ単語勉強したるで」と学習者が身構えていないときなので、なんとなーく前後の文脈からその未知語の意味を類推して通り過ぎて行ってしまいます。この類推、いつも正しいとは言い切れません。語彙知識を吸収するときには、その単語の形(綴りや音)と意味をしっかりマッチさせないといけません。

3つ目は、記憶に残りづらいということです。前述の2つ目の理由と密接につながりがあることですが、未知語と出会ったその場で意味や発音をきちんと調べるという「自分で行う作業」がないと、長期的に保持される記憶として残すことができません。ある未知語との偶発的な出会いが「強烈なインパクト」を伴うものである場合は、1回でもその語彙を覚えてしまうこともあるでしょう。ですが、通例、なんとなくの類推だけで素通りしてしまった単語は記憶に定着せず、何度も繰り返し出会わないと習得されません(偶発的学習では、習得までに8回程度の出会いが必要だとする研究もあります)。

このように、「偶発的学習」では、語彙との出会いの「質」が低くなってしまいます。語彙力を強化するには、これを「意図的学習」に切り替えることが必要です。

意図的学習」は、「この語彙知らんかったなぁ、覚えよう!」という意図を持って未知語と出会う状況を指します。単語帳の例文を暗唱しようとしたり、読書中に出会った未知語の意味や発音をノートにメモしたりするのは、意図的な語彙学習の活動です。何となく英語を聞き流したり英語で書かれたコンテンツに目を通したりする時間は作っているけれど、なかなか語彙力が伸びない…。こんな人は、偶発的な学習を意図的な学習に置き換えましょう。「英語のインプットに触れる時間をなんとなく設ける」のではなく、自分の頭に認知的な負荷がかかる作業をするのです。「覚えよう」という意志をもって覚えるための活動をすることで、その語彙の形(綴り・発音)と意味のセットが記憶に定着する可能性を高めることができます。

浅い学習→深い学習

意図的学習の説明でも少し触れましたが、語彙知識が効率よく定着するかどうかは、「その語彙との出会いのインパクト」にかかっています。学んだことを長期記憶に落とし込み、すぐに呼び起こすことができるような知識にするためには、その知識を記憶から呼び戻すための「取っ掛かり」とともに語彙をインプットする必要があります。

皆さんは、単語帳の勉強に苦労した経験はありませんか?教える仕事をしていると、「学校の小テストのために毎週50個の単語を勉強したけれど、期末試験のころには半分くらいの単語を忘れてしまっていて、また単語帳の始めから勉強をやり直さないといけなかった」という中学生や高校生をよく見かけます。これを書いている私自身も、単語帳での学習が苦手です。これは、単語帳そのものの「作り」や学習者側の「使い方」に問題があり、語彙の勉強が「浅い勉強」に終始してしまうからなのです(どれだけの量・回数をこなすかという問題もありますが、それについては後日書きます)。

単語帳で一生懸命勉強している中学生や高校生は、多くの場合、数日後に迫った直近の単語テストのために「単語の形(綴り)と意味(単語帳に太字表記された第一義)のセット」を詰め込もうとします。単語とその意味を一致させるだけの選択問題のテストであれば、「見開き1ページに収まった”単語と意味のセット”を何度も唱える・何度も見る」という直前対策(浅い勉強)でも合格点を取ることができます。ですが、各「単語と意味」を結びつける”つなぎ”の役割を果たす情報がなければ、数日後にはこの記憶は失われてしまうでしょう。

シンプルな情報の方がメモリを食わず、すんなり脳内に収まるように感じるかもしれません。しかし、実際は、複雑な情報の方が長期的な保持に繋がりやすいのです。情報が複雑化されている方が、「事柄A」と「事柄B」を結びつける連想ゲームを行いやすくなり、2つの事柄を関連付けて思い出しやすくなります

例えば、acquireという単語を「acquire = ~を獲得・習得する」のシンプルな一対一対応で頭に詰め込もうとしても、ACQUIREという形と「獲得・習得する」という意味を結びつける「理由」がなく、後でその2つをセットにして呼び起こすのが難しくなります。

ここで、少し手間をかけてこの単語を「深く学習」してみましょう。acquireという単語は、require(~を要求する)という単語となんだか音やスペルが似ていますね。この2つの単語の語源を調べると、どちらもquire(求める)という語に由来があります。このquire(求める)は、quest, questionという単語の語源でもあります。ここまで知ると、ちょっとacquireという単語のイメージがついてきましたね。require(要求)して、acquire(獲得)する。このように、語源を掘り下げたり関連する既知の単語の知識を組み合わせたりして、acquireという単語の情報を「後で取り出しやすい形」にして頭の中に格納することができるのです。

深い学習」のやり方は色々考えられます。先の例のように語源を知ってその単語の意味を「理解する」という方法もあれば、例文丸ごと覚えて「どんな語と共起するか」という情報をセットにする(例:ableの例文を見ると、実際に使われるときにbe able to Vという形になることが分かる)、知っている派生語とセットにする(例:requireを覚えるとき、なじみ深いrequestの意味を思い浮かべる)といった方法もあります。

自分が語彙学習を楽しく感じられる(「勉強になるわぁ!」と感動できる)アプローチであれば何でも構いません。自分の頭と手を動かして情報を処理することで、未知語との1回1回の出会いを「記憶に残る深い学習」にしていきましょう

まとめ

語彙習得の近道は、遠回りに思えるかもしれないけれど、「意図的に」「深い学習」を実践していくことです。認知的負荷のかからない楽な学習、近視眼的な一夜漬け学習から卒業し、丁寧に語彙を知ろうとすること。これが、「何回見てもこの単語覚えられない!!」という状態を防ぐ一番の方策です。

「意図的学習」「深い学習」を意識することで、語彙学習の質を高めていきましょう

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